Romeoの雑記集

Romeoと申します。主に社会とかメディアとかメディアコンテンツについて思ったことをつらつら書いています。

TSUTAYA図書館問題から見たマス・メディアの役割

1. この問題の火付け役は?

 ここ最近、TSUTAYAを運営しているCCC*1(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営する公設図書館を巡る報道が盛んに行われている。

 事の発端になる話は佐賀県武雄市の「TSUTAYA図書館」の蔵書について不適切な選書が行われていたところから始まる。当初はTwitterで選書に関するツイートがまとめられ、拡散されている状態だったと記憶している。そこからジワリジワリと話が広がっていき、全国ネットのニュースにまで発展していった。

 

 僕自身はこの問題を7月末くらいから追っているが、全国規模の話題になった火付け役はハフィントンポスト(以下、「ハフポス」と省略します)だと思う。ハフィントンポストはアメリカ発のウェブメディアで、日本版では長野智子 (@nagano_t) | Twitter氏が編集主幹を務め、朝日新聞社が提携して運営されている。ウェブメディアということもあり、ライター陣はネットに強い方々が多く、ネット上で話題になったこの問題に目をつけるのが早かった。
ハフポスでは、今回の一件に直接的に関係するであろう記事では、一番古いモノで2014年4月の記事がある。

武雄市図書館が開館前にDVDを大量除籍 「館内併設のTSUTAYAに配慮?」との疑問の声に武雄市は否定 (猪谷千香、ハフィントンポスト、4月25日)

ハフポスでは昨年の春頃からこの問題の発端部分について報じているが、最も直接的な引き金となった記事が今年9月に報じられた記事であると思う。

武雄市図書館の選書でCCCが異例の「反省」 愛知県小牧市「TSUTAYA図書館」計画は住民投票へ (猪谷千香、ハフィントンポスト、9月11日)

 僕の記憶が確かならスマートニュース*2では、この日の朝のトップニュースだったと思う。事実、TwitterFacebookでは、この記事は前述の記事に比べて2倍くらい多くツイートやシェアがされていた。それだけ反響が大きかったといえることから、考えるに全国ネットでこの問題が共有される引き金となった「報道」であると思う。

 

2. マス・メディアの発信力の高さ

 ネットの時代であることは確かだがマス・メディア、特に放送メディアの伝播力というのはとても強力だ。個人的には、9月の中旬あたりから昼のワイドショーや夕方のニュース番組などで放送されてから「マス(大衆)」に対しても、この問題の認知度が一気に上がった気がする。放送だけでなく、新聞や通信社も同じような時期からこの問題についての報道を始めている。
 新聞、放送といったマス・メディアがこの問題について報じはじめたことで、同じくCCCが運営する海老名市立図書館の不適切図書の問題や愛知県小牧市の新図書館建設を巡る住民投票にも注目が集まっている。

 

 3. 佐賀新聞はどう報じたか?

 では、佐賀の地方紙である佐賀新聞はこの問題をどう報じたのだろうか?

佐賀新聞の電子版で『武雄市図書館』で検索したところ、貸し出し実績のなかった1630冊分と同数の書籍を市に寄贈するという記事 *3が9月12日に、それ以降は図書館関連では5本の記事が出されている。同じ検索ワードとCCCの図書館関連に絞って検索した全国紙の朝日、毎日*4で比較すると、朝日:11件、毎日:5件という結果だった。かなりざっくりとした条件での検索、電子版のみでの結果のため不確定要素が多いが、全国紙と比較すると地域に根付いて報道を行う地元紙にしては取り扱いが少ない印象をもった。ただし、神奈川県と愛知県のTSUTAYA図書館に関しての記事(通信社の配信記事も含む)は含まれていないのでそれを含めると10本程度になると思う。

 各社の記事を読んだ感想としては、どれも同じような内容だった。調査報道やキャンペーン報道のような特別な記事ではなく、形式的な一般的な報道にとどまっていた。

 

4. 考察とまとめ

 全国規模にまで共有されたTSUTAYA図書館問題の火付け役はネットメディアだった。メディア研究者の藤代裕之はマスメディア的には「ツタヤ図書館問題」は始まったばかりだ」 *5 (ヤフーニュース個人から引用)で

マスメディアがネットの後追いをする現実はすでに常態化している」

と述べているように、ネットの速さに現在のマス・メディアがついていくことは不可能だ。前述のTwitterまとめにある資料を入手、解析をした人たちは、Twitterに投稿した。今回の一件は個人の力によって掘り起こされ、アジェンダ(議題/課題)として提起された。そこにマス・メディアの力は介在せず、出来事をただ後追いするだけの状態になっている。

 以前、この問題に関するブログを書いた時、「この問題を佐賀新聞さんが長期連載で報じて、全国ネットになればいいな」と思い、ちょくちょく佐賀新聞の電子版記事を読んでいたが、今の所そういった記事は目にしていない。
 やはり地元で起きていることを最も細かく伝えることができるのが地方紙だ。そして、佐賀新聞は地方紙としてこの問題に最も近いところにいるメディアだ。地元からの観点、TSUTAYA図書館第一号として浮き彫りになった問題点、報ずるべきことは沢山あるはずだ。ヤフーニュースにも出稿しているのだからそういった記事には全国の人たちもアクセスし、何かしらの議論へとつながっていく。僕はそうすれば自ずと問題解決へと近づけると思うのだが。

 ある記者の言葉をお借りして流用すると、「SNSは拡散には強いが議論には向かない」ということである。SNSは例え個人の投稿でも一気に拡散することは多々ある。しかし、Twitterを例に挙げれば140字の制限のなかで自分の考えをまとめて伝えることは難しく、その先にある議論にまで持っていくことは大変である。逆にマス・メディア(の中の人たち)はネットの情報に意識してアクセスしていないとこうした問題を見過ごしがちになる。つまり、SNS(ネット)にもマス・メディアにも得手不得手があり、両者がお互いの不足している部分を補い合うことが必要である。しかし、現状はネットを中心に広がっており、冷静にあるべき論点を提示しているメディアは少ない。前述の藤代が問題視している*6ように、この問題自体、「TSUTAYAを叩けば終わり」というわけではなく、図書館運営や地方創生といった問題にまで至る根深いものだ。
 TSUTAYA図書館をはじめ、民間運営の図書館はここ数年で増えている。民間運営の公設図書館の計画も全国数ヶ所に存在している今、広い論点を提示し議論を促していけるメディアが必要だと思う。

 

追記

 今回の一件で、個人的に思ったことはマス・メディアの存在感がなかったことである。問題の掘り起こしから検証、批判に至るまですべてがネットの世界だけで完結していたからだ。マス・メディアは事実関係の後追い報道程度で、本格的な調査報道には至っていない。しかし、だからといって「マス・メディアが悪い!」という話にはならない。そこにはネットの世界とマス・メディアの中の人たち(現場記者というよりキャップやデスクの人たち)の問題意識に違いがあるからだ。僕はどちらにも道理の通った「正義」があり、どちらも「正しい」と思っている。
 ただ、マス・メディアには時々どことなく「古さ」を垣間見ることがある。これが価値観の相違を生むのだろうし、時には批判の対象にもなるのだと思う。しかし、「古いから悪い」わけではない。「温故知新」という古事成語があるように、人は古いことから学んでいく。
 個人的には今のマス・メディアには「アップグレード」が必要ではと思う。時代の変遷についていくためには外見も中身も変わっていく必要があるからだ。特に地方紙。今の新聞業界を偏見混みで言い表すと、部数の落ち込みに悲鳴をあげながら必死に変わろうとする全国紙と、地方の独占的な占有率と戸別宅配制度にあぐらをかいている地方紙があるように思う。某地方紙の常務の方に「うちは紙で勝負しているから」と言われ、「10年後にはあなたは定年してるからいいけど、今、現場の人たちはどうするんじゃい」と言いかけたことがあったが、全国紙ほど危機感がないということなのだと思う。新聞の購読部数は減少してはいるが、一気に下がっているわけではなく、緩やかに減少している*7ため経営上は安定していると推測できる。しかし、どこかの段階で変わっていかなければ、企業としての持続可能性はなくなってしまうことは肝に銘じてほしいと思う。

 

 

*1:カルチュア・コンビニエンス・クラブの略で図書館事業の委託業務・運営などを行う<Twitter、はてぶのコメントでご指摘頂きましたので、訂正しました>

*2:日本でのキュレーションメディアの先駆けであるニュースアプリ

*3:「貸し出しなし1630冊 CCC新たに選書、寄贈へ」、佐賀新聞http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/228796、2015年10月12日閲覧

*4:読売は検索数1件のみ、経済紙は通信社からの配信記事が多いので除外、九州のブロック紙である西日本新聞は…西日本新聞さんの検索エンジン使えない子だったため筆者が途中で投げ出してしまった

*5:藤代裕之、「マスメディア的には「ツタヤ図書館問題」は始まったばかりだ」、ヤフーニュース個人、2015年10月12日閲覧 

*6:藤代はヤフーニュース個人、「マスメディア的には「ツタヤ図書館問題」は始まったばかりだ」で『いま危惧しているのは、このまま報道が過熱し「ツタヤ図書館が悪い」といった感情的なバッシングが起きることで、それではトカゲの尻尾切りになってしまうことだ…(中略)…なぜ地方自治体や図書館が「ツタヤ」に頼るのか、その原因が何かを議論しなければ、「ツタヤ」に変わる何かがそこに入り込むだけだ』と述べている、2015年10月13日閲覧

*7:日本新聞協会 調査データ、http://www.pressnet.or.jp/data/、2015年10月12日閲覧