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Romeoの雑記集

Romeoと申します。主に社会とかメディアとかメディアコンテンツについて思ったことをつらつら書いています。

村上春樹氏の図書館貸出履歴報道の問題とメディアの倫理

はじめに

 今回の村上春樹氏の貸出履歴報道が問題視されたのは、ライターの猪谷千香さんがハフィントンポストで報じた「村上春樹さんが借りた本はなぜ秘密にされるべきなのか? 神戸新聞報道から考える”リアル図書館戦争”」(ハフィントンポスト、猪谷千香、2015年10月21日)が発端となっている。
 何故、今から2ヶ月も前の事を今更ブログにまとめるのか?というと、12月1日に朝日新聞が「村上春樹さんが借りた本、新聞で報道「是認できぬ」日本図書館協会、報告書」(朝日新聞、竹内誠人、12月1日)という記事を目にしたからと僕自身の思考力と文章力の遅さ(主に後者)が理由である。書こうと思っていてそのまま時間が過ぎてしまい、お蔵入り状態になっている物が幾つかある状況でたまたま朝日新聞の報道を目にしたので、今回はこの問題についてまとめてみようと思う。

 

 

何が問題なのか?

 問題となっているのは、神戸新聞が村上氏の高校時代の図書館貸出履歴やカードの写真を事前承諾なしに報道、掲載したことが「図書館の自由に関する宣言」の第3の(1) *1 に抵触するのではということだ。この点に関し、神戸新聞は「報道することは公益性が高いと判断した」というコメント*2を出している。
 この問題の僕自身として考えは、メディア企業という公共性の高い企業にしては甘すぎる倫理観では?というスタンスだ。いくら「公人」並みの著名人とはいえ、事前の承諾なしに報じてしまった点はいただけないし、まして他の方のカードが写り込んだ写真を使用した点は神戸新聞も「配慮が足りなかった」とコメント*3してはいるが、詰めの甘い編集であったと言わざるをえない。

 

メディアに要求される倫理観

 村上氏の貸出履歴の情報は高校の図書館から寄せられたものであり、日本図書館協会の図書館の自由委員会の報告 *4でも、あくまで履歴やカードの適切な処分について学校図書館側の不備を指摘した形になっている。しかし、善意の情報提供だったとしても、やはり本人への確認は必要なプロセスではなかろうか?前述のハフポス記事によると、神戸新聞編集部は「図書館の自由に関する宣言」の内容を承知していた。*5
 「知っていた」と「知らなかった」ではかなり違うと思うが、そこは論点からずれてきてしまうので割愛するが、新聞社という公共性の高い企業にはそれ相応の倫理観が問われてくると思う。先日の某地方紙記者の暴言ツイートの一件然り、メディア企業の人間が問題や不祥事を起こすと大きく報じられるのは、社会の「公器」として存在感があるからだ。特にネットの世界ではちょっとでも「道」を外すと炎上案件になる。ネットの世界にある「マスゴミ論」的な言説の多くも「道」を外したところから派生していくように、社会または世論もしくは大衆の「ルール」みたいなものから逸脱すると批判を浴びることになる。そしてこの「ルール」なるものの線引きは曖昧だけど厳格だ。「ルール」なるものから逸脱しないために、メディア企業も勤める人も非常に高い倫理観を要求されているのかもしれない。その上で「メディアの倫理観」を考えることは難しいな、と思う。 
 今回の一件では、神戸新聞が述べた「公益性」についても考えなければならない。村上氏の社会的な認知度からすれば、高校時代どんな本を読んでいたかは関心事である。しかし、村上氏は「公人」ではない。また本人の確認を得ずに報じてしまった点はあるべきプロセスを経ていないと言える。神戸新聞編集部は「図書館の自由に関する宣言」について知っていたのだから、いくら「公益性」があったとしても〈取材→確認→掲載〉の順序を踏むべきだったと思う。

 

 

〈2015年12月7日に再掲しました〉

*1:図書館の自由に関する宣言」第3「図書館は利用者の秘密を守る」の(1)には「読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない」(但し書き文は割愛)とあり、何を読んだかを人に知られない、プライバシーを守ることが求められている 

*2:ハフィントンポスト、猪谷千香、「村上春樹さんが借りた本はなぜ秘密にされるべきなのか? 神戸新聞報道から考える"リアル図書館戦争"」より抜粋引用、2015年12月1日閲覧

*3:脚注2と同上

*4:日本図書館協会 図書館の自由委員会、「神戸高校旧蔵書貸出記録流出について」調査報告、2015年12月1日閲覧

*5:ハフィントンポスト、猪谷千香、「村上春樹さんが借りた本はなぜ秘密にされるべきなのか? 神戸新聞報道から考える"リアル図書館戦争"」、「ハフポスと日本版は、神戸新聞社に「図書館の自由に関する宣言」における「図書館は利用者の秘密を守る」という項目を知った上で、掲載を判断したのかと質問。神戸新聞社の小野局次長は、「『図書館の自由に関する宣言』は図書館のあるべき姿や図書館が守るべき原則として承知しており、尊重したいと考えています」と回答」以上の部分から適宜引用している