災害と情報格差
はじめに
今回の「熊本地震」では情報格差*1の問題が改めて顕在化したと感じた。東日本大震災でも情報格差が問題視されたが、容易に解決できる問題ではなく、情報化社会の現代ではなくならない課題でもある。4月20日の西日本新聞の記事*2にこの問題について言及した記事があった。かいつまんで要約すると、マスメディアの報道が集中するところには物資も集中するが、マスメディアが報道していないところには、物資不足が続いている。そういったところではSNSが補完をしている。しかし、お年寄りが多い自主避難所などの行政が把握できていないところではこうした手段が使えない、ということだ。
今回は、こうした地震などの自然災害における情報格差の問題について考察する。
社会的な脆弱性の問題
災害時には被害を被る側には「差」が存在している。男性よりも女性、大人よりも子どもや高齢者といったように、社会的な弱者が災害による被害を被りやすい。このような社会的な脆弱性の問題は情報取得の場合においては「情報格差」として現れる。実際、インターネットを活用できる世代/地域と、できない世代/地域で避難情報や支援物資の配給情報など災害「後」の情報取得で格差が生まれてしまっている。マスメディアが報じきれていない空白地帯の情報を補完しているSNSなどでも地域全体に情報を共有することは難しく、結果としてスマートフォンなどを使えない高齢者を中心に「情報弱者」となってしまう恐れがある。
災害時のモバイル端末の優位性
地震などの自然災害の時に最も活用される情報源はテレビ、ラジオなどのマスメディアである。しかし、テレビは電源がないと視聴することはできない欠点がある。ただラジオに関しては電源が電源がなくても視聴でき、スマートフォンなどのモバイル端末でもradikoなどのアプリを使えば視聴できるメリットがあるため有用である。ラジオ視聴やTwitterなどのSNSを使うこともできるスマートフォンなどのモバイル端末は災害時には有用であると言える*3。
高齢者のオールドメディア需要の高さ
総務省の「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(2016年4月20日閲覧)によると、高齢者のいる避難所へは紙媒体による情報の配布が行なわれているという結果もあった。またテレビ放送へのニーズも高く、前述の調査と同じ三菱総研のとりまとめ資料によると、避難所では高齢者からテレビの要望の声が多かった。このように、テレビや新聞などオールドメディアと呼ばれる媒体に対するニーズは高齢者から聞かれることが多く、普段からモバイル端末に慣れ親しんでいない高齢者世代の情報取得にはモバイル利用におけるメリットを享受できないと言える。
情報化が格差を増大させる
災害時はもちろん、平時でもモバイル端末に慣れていない高齢者は「情報弱者」になりがちである。こうした状況に対し、行政や民間事業者もICTを高齢者に普及させる事業などを展開しているが、結果的に「格差」が増やしているとも言える。例えば、テレビ電話のモデル地区になった地区とそうでない地区では「持つ者と持たざる者」の立場になってしまっている。情報化が進むほどに「格差」が進んでしまうジレンマをはらんでいる。
災害時の情報発信の在り方
筆者は情報格差に対して地域メディアの存在は重要になってくると思う。東日本大震災では石巻日日新聞が避難所に「壁新聞」を配置したという話があるように、自身も被災している地域メディアの方が被災者のニーズや「痛み」がよく分かるからだ。情報の空白地帯となっている状況を全国へ発信できるのは、地域に密着している地域メディアであり、彼らの存在が情報格差の問題解決に貢献できるのではないだろうか?
〈参考資料〉
近藤則子、2013、「東日本大震災における情報格差 高齢者・障害者の立場から考える災害関連情報のあり方 災害時にインターネットを使える高齢者になろう!」、『消防科学と情報』(113)特集東日本大震災(9)p20-24