Romeoの雑記集

Romeoと申します。主に社会とかメディアとかメディアコンテンツについて思ったことをつらつら書いています。

岐阜新聞の報道にみる、「地方紙のジレンマ」

はじめに

 本当は天津の爆発事故の報道について書く予定でしたが、急遽変更して前回と同じく「地方紙」に立脚して書きたいと思います。天津の方はそのうち書きます。(多分)

 

本題

 今回は岐阜新聞の報じたあるニュースから、「地方紙のジレンマ」を考えたい。

岐阜県内のミャンマー人技能実習生、失踪急増 難民申請か (岐阜新聞Web) - Yahoo!ニュース

 ざっくり説明すると、外国人技能実習制度でミャンマーから受け入れた実習生の失踪者が増加し、受け入れ企業を悩ませているというニュースだ。また難民申請時に、申請期間中は指定された実習先以外で働くことができる制度を利用するために実習先から逃げ出し難民申請を行うケースもあるといい、これもまた問題となっているという。

 

 今回もこのニュースを知ったのは、(使いようによっては優秀な情報収集ツールである)Twitterだ。
件の記事の何が問題なのか?僕が問題だと思った部分が2ページ目にある。

労働集約型の産業で深刻な人手不足に悩む縫製業とアイロンプレス業では、外国人技能実習生は欠かすことのできない労働力となっている。実習先企業は突然、働き手を失い、経営に大きな痛手となっている。 引用終わり

〈前述記事(岐阜新聞web、「岐阜県内のミャンマー技能実習生、失踪急増 難民申請か」8月18日)より抜粋引用。赤字は筆者による〉

 僕はこの「労働力」という単語に引っかかりを感じた。「外国人技能実習制度」を所管している厚生労働省、公益財団法人「国際研修協力機構(JITCO)」のページを確認したところ、「国際貢献、国際協力」や『各産業の「技能」「技術」「知能」の習得』のためと書かれている。「労働」という言葉は一言も書かれていなかった。換言すれば、外国人実習生は労働者ではなく、産業の技能や知識習得のため日本に来た「留学生」、という方が分かりやすいだろうか。ちなみにそもそも論として、「外国人技能実習制度」は発展途上国の産業従事者が日本でその産業の技能等を習得するための制度であり、決して不足した労働人口の埋め合わせではないということは理解しておきたい。

  しかし、岐阜新聞のこの記事は全体を読んでも、この表現では外国人実習生を「労働力」として扱っているように見えてしまう。件の記事を書いた記者がこの制度についてどう理解していたかは分からないが、読み取り方によっては波紋を呼びそうな「脇が甘い」記事といえる。ただし、この制度自体、問題点が多く指摘されている。

過酷労働の悲劇! 外国人の技能実習生2万5千人が失踪 入管「深刻な問題」 過去10年間、平成26年は最多4800人(1/2ページ) - 産経WEST

平均年収2500万円、「レタス長者」の川上村 実態は中国人実習生に過酷労働強いる「ブラック農家」? : J-CASTニュース

長時間労働、低賃金、実習にかこつけ単純労働にのみ従事させるなど報道されているものだけでも、とりあげたらキリがない。またJITCOの統計によると、2011年~2013年にかけて実習生の行方不明者は2.5倍に増えている。増加の背景にはこうした問題が主な要因だと推測される。こうした報道などからいえることは、この制度を「安価な労働力供給装置」と誤解している人が少なからずいるということだ。

 前回のブログのエントリでも述べたが、地方紙が奉仕をしているのは、「地域社会」であって、「日本社会」ではない。つまり、地方紙は最大の読者である地元に立脚して記事を書くので、一般的/全国紙的なジャーナリズム論で語られる「公正中立」とか「不偏不党」のような考え方からは離れているのでは?と思う。しかし、それが「正しい」かは別の問題だ。制度が実質的に「安価な労働力の供給装置」として見られていることに焦点を当てることが重要だと僕は思う。

例えば、信濃毎日新聞は長野県川上村の農林業振興事業協同組合が5年間の実習生受け入れ停止処分を受けたことについて、日弁連勧告や取材に基づいて制度自体についても問題視している。(web版の当該記事はリンク切れ)
また産経新聞は、実習前後で日本の印象にかなりの落差があると報じている。

「日本の印象良かった」97%→来日後58%に激減 ベトナム人技能実習生調査 龍谷大(1/2ページ) - 産経WEST

ここまで来ると「一地方」の問題で終わりというわけには、いかなくなるのではないか?

 僕は岐阜新聞の報道は間違っていると思う。確かに記事中の企業、経営者からすれば「労働者」がいなくなるわけだから死活問題といえるだろう。それを「問題」として報じることは地方紙のあり方としては正しいかもしれない。しかし、「問題」の本質はそこではないだろう。制度自体のあり方から論じることが必要だ。
彼ら、彼女ら実習生は「安価な労働者」ではない。自分たちの国の将来のため、日本に学びに来ているのだから。

 現在、多くの地方紙がYahooニュースに記事を出稿している。僕もYahooニュースでこの記事を読んだ。僕はこの一件を「地方紙のジレンマ」を考える契機にしてほしいと思う。岐阜新聞さんを人柱にしたようで申し訳ないが、件の記事は「内側」である県内と「外側」である全国で意味合いが変わってくるからだ。県内から見れば、外国人実習生という名の「外国人労働者」の失踪が増加しているという意味でも、「外側」から見れば、この文章にはなんとなく違和感を感じる。

実習先企業で女性たちが受け取っていた給与は月10万円ほど。男性社長(75)は「残業が少なくて稼ぎにならなかったのか、最初から失踪するつもりだったのか。真面目に働いていたのに…」と裏切られたような思いを口にした。 引用終わり
(岐阜新聞web、「岐阜県内のミャンマー技能実習生、失踪急増 難民申請か」、8月18日)より抜粋引用

Yahooニュースに出稿する以上、配信されたニュースは”県外”の人の目にも触れる。インターネットによって新たな読者層の開拓ができるかもしれないが、同時により広い視点で物事を捉える必要がある。一番の読者は地元の人たち。しかし、「外」にも読者がいることも意識しなければいけないので、"間合い"の取り方は難しくなっていく。これはインターネット時代の「地方紙のジレンマ」といえるかもしれない。